わたくしたちの市電・市バス

昭和42年8月 京都市広報課

京都市交通局は,1967(昭和42)年1月に交通事業者としては全国で13番目の「財政再建団体」に指定され,自治省の管理下に「財政再建」という名の転落の道を歩むことになった。

富井市政では市電廃止の方針は撤回され,トロリーバスの廃止のみを含む第1次の「財政再建計画」は,少数与党の市議会において一旦否決の後,1967年11月ようやく可決・成立することになる。このちらしは,そのような事情を市民に説明し,運賃値上げの理解を得るために,市電・市バスの車内で配布されたものである。


いま,市電・市バス事業は,大きな赤字だそうですが……。
 それはいったい,どうして起こったのですか。

そうなんです。昭和35年以来現在までにつもりつもった赤字は35億円で,市民1人あたりにすると2,500円になります。こうしているうちにも,1日470万円ずつ赤字が増えているのです。
 いちばんの原因は,他の物価にくらべて,料金が非常に安いからです。さらに交通ラッシュも大きな理由です。大型トラックや自家用車,タクシーが非常に増えてきて,市電や市バスが,思うように走れなくなってきたからです。また,たくさんの人が都市の周辺に集まってきた結果,朝夕の通勤・通学のお客が多くなり,ラッシュのための費用が高くつくからです。

経営をもっと合理化すればよいのではありませんか。

京都市では,全職員をあげて,赤字を少なくし,「市民の足」を守るため,経営の合理化に努めてきました。たとえば
●市電・市バスのワンマン化をすすめてきました。
●変電所など機械設備を自動化してきました。
●市電の急行運転をはじめました。
●い<つかの事業所や詰所を一つにまとめました。
これらによって,いままでに,約28億円節約できました。

赤字は,税金で穴うめしたらどうですか。
「公営企業法」という法律があって,「市電や市バスの事業は,運賃収入によってまかないなさい」ときめられているのです。ですから,税金で穴うめすることはむずかしいのです。もし,するとしますと,35億円の赤字をなくすには,市民からいただいている税金の約5分の1を使ってしまうことになります。

いっそ,民間経営にすれば・・。
交通事業は,民営でも,公営でも,財政は非常に苦しいのが現状です。もし民営にしてしまうと,結局,利用者の多い,もうかる路線だけが優先されて,周辺の市民の方に不便をおかけすることになると思います。

ところで市電・市バスはなかなか来ませんが。 申しわけありません。私たちも一生懸命,このようなことのないように働いていますが,現在の混んだ道路と赤字とが,このようにしているともいえます。しかし,ことしは苦しいなかから,市電・市バスの走る回数をふやすことにしました。
 また,もっと根本的な都市政策を進めるとともに,市民の足である市電や市バスが通りやすいように交通規制も要望します。

市電が廃止されるときましたが……。
東京や大阪では,電車を次々と廃止しています。京都市では現在1日のべ56万人もの市民に利用していただいており,「市民の足」として重要な役割を果たしていますので,いまのところ,廃止する考えはありません。

国にもっと要求すべきだと思います。 そうなんです。このような交通事業の赤字は,ひとり京都市だけでなく,全国の都市のすべてが,頭を悩ましています。これからも,市民の方々や,市議会のご協力を得て,各都市が手をつないで政府や関係先に,積極的な対策を講じるようにします。

このまま放っておいたらどうなりますか。
このまま放っておくと,42年度の末(43年3月末)には赤字の合計が52億円になります。これらの赤字は,企業債(つまり借金)と国や銀行からの借入金でまかなっていますが,国や銀行がいろまで貸してくれるか分かりませんし,その利子だけでも大へんです。
 資金がなくなりますと,電車やバスの買いかえはおろか,軌道や架線の修理もできず,従業員の給料も払えなくなって,市電や市パスを動かすことはできなくなる心配があります。

では,どうしたらよいのでしょうか。
日本で最初に生まれた京都の市電,現在もあわせて90万人も運んでいる市電・市バスを守るためには,料金の値上げを含んだ思い切った手術が必要です。ほかの大都市では,すでに1年前に料金値上げをし,さらに次の値上げを考えています。物価が上がった分だけは,上げないと赤字になるのはあたりまえです。もちろん,物価が上がらないように,政府に対して運動も進めます。
 交通料金の値上げを含めた再建計画をすすめると,現在までの赤字のうち,利子の高い借金を一時タナ上げしたり,利子の一部を国に負担してもらうことになります。
 また,たとえば,市バスを増車するなど,市民の足を確保することができます。
 市民のみなさん。このような実情を理解していただき,ご協力くださるようお願いします。