東福寺ルート(2)

Tofukuji Route Connecting Kyoto Station and Kiyomizu-Gion Area (Cont'd)

以前から観光シーズンの東山通の混雑は問題であったが,インバウンド客の増加に伴い通年で問題が拡大しており,Over-Tourismが指摘されるに至っている。このため2008年頃から,JR奈良線と京阪本線を東福寺で乗換えて東山地区へアクセスするルートがPRされるようになり,11年11月にはJR下り線と京阪上り線を直結する乗換改札が設置されて利便性が増した。しかし東福寺自体が有数の観光地であること,特にJR側のホームやそこに至るルートが狭隘であることにより,安全性や快適性に問題がある。本ページでは東福寺駅の現状と,抜本的解決策となる京都駅連絡線について考える。

図1 京都駅連絡線ルート図(Clickで拡大)図2 崇仁北部地区土地区画整理事業
[路線計画] 京都駅と京阪線をつなぐ路線について,図1のルートを想定すれば,建設延長は約960mになる。地下鉄東西線並みのキロ当たり309億円の建設単価だと,建設費は300億円弱と計算される。連絡線の七条駅の位置は,七条通北側,京阪線の下層,やや鴨川寄りに設置を考える。京阪線は塩小路通の南側で地上に出るため,七条駅は地下1階と浅く,京阪線上りホームから地下2階の連絡線島式ホームへ降りる想定が可能である。

「旧・普通鉄道構造規則」では,鉄道の最小曲線半径は160mと定められていたが,現行の「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」では,第14条で「曲線半径は、車両の曲線通過性能、運転速度等を考慮し、車両の安全な走行に支障を及ぼすおそれのないものでなければならない」と,特認を得ることなく事業者が定めることが可能である。左図の路線だと,半径150m程度(カント量にもよるが制限40km/h程度)はクリア可能だが,より大きな半径を取るためには,塩小路通の高倉以東でやや南に振るか,七条駅を京阪線に沿わせずに河底に斜めに設置するかだが,前者だと建設延長の拡大に伴う建設費増,後者だと河床下の浸透流に関する検討が必要になる。

なお想定路線の鴨川右岸・路外部分は,京都市立芸術大学の移転を含む「崇仁北部地区土地区画整理事業」の実施区域内にあるため,早期に発議すれば導入空間を確保できる余地がある。

図3 京都駅ホーム位置図図4 配線図
図3はYahoo!地図の地下街図に駅施設を記入したものである。塩小路通の地下には,一部を除いて地下街が存在しないため,駅施設は塩小路通直下(B3レベル)への設置を想定する。京阪線の車両長は運転台付が18,900ミリ,運転台無が18,700ミリであるため,4両編成を想定すると,ホーム有効長は75.2m必要になる。既存の烏丸線直下を越えて駅施設を設置すると,支保工等のコストが嵩むため,それを避けて既設の烏丸線隧道の東側に収まるようにすれば,ホームは概ね東洞院通付近までとなる。ただし将来の西伸の可能性を残すために,烏丸線と立体交差可能な深度とするが,北陸新幹線との競合に注意が必要である。図4は京阪線三条以南を含む配線図だが,連絡線は五条~七条間で京阪線下部に分岐することを想定している。

かつて京阪・鴨東線(出町柳~三条間)は鴨川電鉄(京阪・京福出資による民間会社),地下鉄・東西線(三条京阪~御陵間)は京都高速鉄道(京都市出資の第3セクター)が免許を受けたが,前者は開業前に京阪電鉄と合併,後者は第3種事業者となったものの,2009年に解散した。近鉄・東大阪線(現・けいはんな線)の建設主体であった東大阪生駒電鉄は近鉄と合併したが,阪神・なんば線の建設主体であった西大阪高速鉄道や片福連絡線(JR東西線)を建設した関西高速鉄道は現在も存続しており,特に後者は新たに「なにわ筋線」の建設も担うことになった。事業スキームとしては,やはり受け皿となる第3セクター会社を設立し,完成後は京阪電鉄が第2種事業者として営業するのが一般的だろう。

[運転計画と輸送力] 戦前からの計画に従って,将来的には叡山線への直通運転を視野に入れつつ,当初は京阪車両4両編成による運転を想定する。昼間時間帯の京阪線は,10分サイクルで特急と準急が交互に,1時間当たり12本の運転となる。ここに連絡線からの乗入れ電車が10分サイクルで6本入ると想定する。その場合,出町柳~三条間で輸送力が過大になるため,準急については三条折返しとすることが妥当だろう。平日朝7時台には京阪線は15本の運行であるため,連絡線の6本を加えると21本になるが,天満橋の淀屋橋方面は平日朝8時台に24本を複線で捌いているため,あと数本の増発が可能なレベルである。京阪10000系の場合,4両編成の定員は540名(座席188名)であるので,1時間当たりの輸送力は3,240名(座席1,128名)となる。

叡電との直通を実施する場合は,たとえば出町柳方から,八瀬比叡山口行の700系1両と二軒茶屋方面への800系2両を修学院で解結・併結することが考えらえる。この場合,車内の通抜けはできないが,ワンマン運転では後部車は締切であるため,叡電下り(京阪上り)方向の元田中~一乗寺間各駅では,3両目がホームに掛からなくても支障はない。叡電上り(京阪下り)方向については,ホーム延長等の対策が必要になる。修学院駅については,車両振替のため現時点でホーム有効長は3両分ある。叡電の車両長は15,700ミリであるため,3両の編成長は47.1mとなる。このため叡電車両を使う場合は,京阪線内で乗車位置の調整が必要になる。なお叡電700系は定員86名(座席42名),800系は定員108名(座席45/43名)であり,編成定員は302名(座席132/130名),1時間当たりの輸送力は1,832名(座席792/780名)に減少するため,京都~七条間シャトル便の追加運行を考慮して,七条駅に渡り線を設ける。

(河原町通)河原町今出川方面(東山通)祇園方面
系統名平 日
7時台
土・休日
11~16時台
系統名平 日
9-11-13時台
土・休日
11-14-16時台
44本4本86・楽洛1本4本
174本4本1008本8本
20510本8本1062本
1101本2本
2068本8本
∑本数18本16本∑本数18本24本
輸送力1,314名1,168名輸送力1,314名1,752名
次に需要面だが,最新の「市バス旅客流動調査」は2012年5月22日~6月3日に実施されたものであり,データが古いため,左表に京都駅前を出る河原町通方面と東山通方面への,2019年秋時点の平日と土・休日の最多本数時間帯の市バス運転本数をまとめる。輸送力は,平均的な市バス・ノンステップ車の定員73名に運転本数を乗じた値である。しかし1時間24本(2.5分間隔)というのは,バスで処理できる需要を越えて,バス渋滞が生じるレベルだろう。更に昨今の運転手不足で,渋滞遅延の中,この本数を維持することも困難になりつつある。

前段で算出した連絡線の輸送力は,土・休日の最多本数時間帯の東山方面への輸送力を賄うものとはなっているが,連絡線ができれば河原町通のバスを代替する可能性が高く,叡電車両3両×6本では双方を合算した輸送力(土・休日は最大2,920名/時)には及ばないことが分る。一方で,たとえば清水五条駅から五条坂までは徒歩13分程度を要するため,東山方面への輸送需要を完全に代替する可能性は低い。そこで仮に,河原町方面への需要の6割と東山方面への需要の4割が連絡線に転移すると考えれば,当面必要とされる輸送力は平日,土・休日共1,400名/時程度となり,叡電車両でもカバー可能な範囲と見込まれる。

図5 出町柳駅の接続例図6 京阪10000系と叡電810形の車体断面
[叡電との接続] 出町柳駅の接続例を図5に示す。最低3線あれば叡電からの片乗入れは可能である。たとえば準急を三条折返しにすれば,1線を特急用に使用し,残り2線を叡電に割当てることが可能であり,叡電折返し電車の待機には,三条方の引上げ線を利用できる。図では余裕を見て,叡電用に1面2線を増設しているが,現在駐輪場(エコステーション21)が使用している京阪用地が利用できる。叡電の地上ホームを2線残す場合,地下線への連絡線は1線で足りるが,叡電の本数で地上ホームと地下ホームの両睨みを求められるのは利用者には負担である(昔の射水線・新富山駅に類例がある)。地下から地上への遷移は,出町柳~元田中間で別途検討が必要になる。

図6は京阪10000系と叡電810形の車両断面の概略を示す。ホーム通過に際して問題となるのは,車両幅員と床面高さである。前者は拡大,後者は縮小が最近の傾向であるが,叡電は種車によって後者にはバラつきがある(同じ800系でも,初期の編成は床面高さ1,147ミリと5cm近く高い)。いずれにせよ,叡電車両の床面は,京阪車両に比べて約10cm低いが,昨今はホームと電車の段差を少なくする方向なので,ホーム高の確認が必要になる。車体幅に関しては,京阪車両の方が大きいため通過に問題はないが,軌道中心から京阪10000系は1,390ミリ,叡電800系は1,345ミリと,ホームと電車の間のギャップは叡電車両では約4.5cm大きくなる点に注意が必要である。さらに叡電に関しては,600V→1500Vへの昇圧が必要になる点,また現有車両は地下線走行を想定しておらず,「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」に定める「地下鉄等旅客車」の規格(旧A-A基準)に適合しない点にも留意したい。

(12/12/2019)