東福寺ルート

Tofukuji Route Connecting Kyoto Station and Kiyomizu-Gion Area

以前から観光シーズンの東山通の混雑は問題であったが,インバウンド客の増加に伴い通年で問題が拡大しており,Over-Tourismが指摘されるに至っている。このため2008年頃から,JR奈良線と京阪本線を東福寺で乗換えて東山地区へアクセスするルートがPRされるようになり,11年11月にはJR下り線と京阪上り線を直結する乗換改札が設置されて利便性が増した。しかし東福寺自体が有数の観光地であること,特にJR側のホームやそこに至るルートが狭隘であることにより,安全性や快適性に問題があり,積極的に乗換え需要を受け容れる余裕はない。本ページでは東福寺駅の現状と,抜本的解決策となる京都駅連絡線について考える。

JR西日本が外国人向けに発売する"Kansai Area Pass"の説明には,東山地区への東福寺(京阪線),山科(東西線)乗換えが紹介されているが,京都駅構内(2019年秋時点)には以前のように東福寺乗換えを積極的にPRする看板は見られない。
Google Street Viewに見る,京都タワービルの京阪電車の東福寺ルート利用促進看板。東福寺の最寄駅であることに加えて,第一日赤の最寄駅でもあるため,過剰な混雑は社会的にも問題が多い。写真は通天橋。
JR側の東福寺駅構内図に加筆。JR駅分離後に築かれた「バカの壁」には,2011年11月に乗換改札が開かれたが,JR側から乗換改札を通ると京阪下り線へは車椅子で移動できない。上下線を結ぶラチ内通路は,京阪線は地下,JR線は橋上に存在するが,前者の上下線を結ぶバリアフリー経路はラチ外にしか無いためだが,乗換改札を誤って通過すると,出場には何れかの入場券購入が必須となる点で,一般客にも不親切な配置と言える。
元からある京阪東改札。かつては国鉄駅も京阪管理だったため,ここから入場し,地下道を京阪上り線と共用していた。 京阪線ホーム。かつての島式ホームに隔壁,跨線橋からの階段と西改札を設置したため,上り線・大阪方は特に狭隘。
JR線の橋上駅舎は03年に完全分離されたが,橋上駅であるにも関わらず東口の京阪駅舎からしかアクセスできない。 JR線下りホームはもっと狭く,最も狭い柱のある箇所ではホーム用点字ブロック(奥行400mm)の3倍余の幅員しかないため,混雑時には転落の危険があるが,ホームドアの設置は不可能。
京阪駅舎とJR改札を結ぶ跨線橋。JR線の全乗降客と両線間の乗換え客の多くが使うが,通路の有効幅員は3m程度しかない。 単線時代の奈良線を行くキハ35系と,オーバークロスする京阪2000系4連。東海道線時代の複線敷が確保されていたため,東福寺への単式ホーム設置(1957年)は容易だった。(1977.7)
1日平均乗車人員(東福寺駅)と宿泊外国人客数(京都市)の推移
2004200820122017増加率
京阪6,4557,1647,4038,20527.1%
JR5,8056,6608,0279,87770.1%
∑乗車人員12,26013,82415,43018,08247.5%
宿泊客数1,4852,5612,3089,665551%
京都市統計書」及びWikipediaによる。
右表に東福寺駅の1日乗車人員の推移と,京都市の外国人宿泊客数(日平均)を示す。「京都総合観光調査」には実人数と延べ人数が掲載されるが,「京都市統計書」には実人数のみが示されるため,実際に京都に滞在する外国人客数は平均泊数(2017年は1.57泊)を乗じたものとなり,それに周辺都市に宿泊する入込み客が加わる。人口147万人(15年国勢調査)の京都市に,人口の1%を超える1.5万人強の外国人宿泊客が常時居る計算になり,その数は04年からの13年間に550%増加(つまり6.5倍)する等,インバウンド客対策が益々重要になっている。

2004年はJR駅が分離された直後に当たるが,その時点から特にJR線の利用者は急増して7割増になっており,現在の駅構造が実際の需要増加に対応する設計になっているとは言い難い。改札口が分離されているため,各乗車人員には乗換客が含まれるが,実際にこの駅で乗換える客の人数に関するデータはない。例えば増加した乗車人員の半分程度だと見なせば,3千人/日程度となるが,パーソントリップ調査(2010年が直近,次回は20年実施予定)の結果を待つ必要がある。
左図はGoogle Mapによる東福寺駅周辺の現況である。都計道・鴨川東岸線(川端通の延長)が建設中であり,周辺の道路環境は大きく変わることが予想されるが,鉄道に関しては変化が見られない。たとえば京阪駅は両端を踏切道に挟まれているため,北側の踏切道を移設しない限り8両対応は困難である。これを解決するには,京都地下線を延長し,ポータルを鳥羽街道~東福寺間に移設することが考えられる。この場合,京阪は地下駅となるため,地上に残るJR駅の拡張余地が得られると共に,JR線を越えるS字カーブも緩和できるが,予算面でほぼ不可能だろう。逆にJR線を高架化することは,南側を九条跨線橋に抑えられているため勾配が取れない等の問題がある。

次善の策としては,京阪も橋上駅として一体化し,JR駅も含めて大幅な増床を図ることが考えられる。さらに共同駅に戻せば,JR線下りと京阪線上りの島式ホームへのエレベータ・階段が一組で済み,京阪西改札と乗換改札が不要になるため,島式ホームの狭隘さは解消できる。京阪線とJR線がラチ内で連絡する駅は他に存在しないため,ICカード等による精算は技術的に可能なはずである。問題はJR線上りホームで,これに関しては隣接する三洋化成工業の敷地の一部を譲り受けるしか方法がない。東福寺駅東口には駅前広場もないため,たとえば橙枠で囲んだ範囲の再開発事業と一体で整備することが望ましい。
東福寺接続に限界があることに気づいたためか,京阪バスは2019年4月から京都駅⇔七条駅間を結ぶループバスの運行を開始した。京阪線と乗継ぐ場合は基本的に100円だが,三条~清水五条が目的地の場合は京阪線運賃を加えて260円となる。東福寺乗換の鉄道連絡運賃290円(祇園四条~藤森間)よりは安いものの,直通の市バスなら230円で行ける区間を,乗換が必要,かつ京阪線では(地下鉄・バス)1日乗車券が使えない等の不便を伴うルートを選択するインセンティブはない。

この区間を鉄道でつなぐ場合,東山線LRT等の案はあるが,建設距離が長く,かつ導入空間の問題で困難が予想される(特に東山通での地下化は,埋蔵文化財調査に時間と費用を要するため,不可能に近い)。手っ取り早い方法は,京都駅と京阪線をつなぐ連絡線の建設であるが,残念ながらそのような構想は運政審答申にも含まれていない。次ページではその可能性について検討する。


(12/9/2019)