幻の地下鉄3号線とLRT計画

Phantom Subway Line #3 and LRT Plans along Imadegawa St.

当初は市電存続派であった富井清市長も,自治省の圧力によりトロバス・伏見線の廃止を受け容れざるを得なくなった頃(1969年春),京都市がまとめた「まちづくり構想~20年後の京都」(マスタープラン)に含まれた高速鉄道・高速道路網を紹介する。現在,今出川通へのLRT導入が検討されているが,実はこの当時から今出川線には軌道系交通の導入が計画されていた。

図1:「市民しんぶん」掲載の構想(1969.5)

高速鉄道としては烏丸線,御池線と京阪鴨東線の他に,第3の市営路線として「東西外郭線」と「洛西線」が書き込まれている。この計画では洛西線は御池線の延長ではなくて,東西外郭線の支線となっていた。この東西外郭線の位置(銀閣寺~白梅町~西大路九条→久我橋)は殆ど市電22乙系統に一致することが読み取れる。

都市高速道路としては南北方向が葛野大路,堀川・油小路,鴨東線,東西方向が御池通,五条通と城南宮道付近が想定されていたようだ。現在の京都高速道路の第2期建設予定路線には西大路通(久世橋通~五条間)が含まれているが,これが建設されると(一体施工でない限り)四条以南の西大路通に地下鉄を入れることは殆ど不可能になる。


京都市LRT計画: 京都市「新しい公共交通システム調査」報告書(2005.8)で提案されている7ルートのうち,今出川線では千本~川端間は道路幅員不足のため単線として計画されている。

離合を区間のほぼ中央の烏丸今出川の交差点1ヶ所で行うとすれば,運転間隔は長い方の千本~烏丸間1.56kmに支配される。併用軌道の表定速度が15km程度であるならば区間通過に約6.5分かかるので,交互運転の場合の運転間隔は最短13分となり,3車体連接車程度だと都市交通機関として輸送力に不安がある。 (堀川にも交換設備を作る場合の最長区間は烏丸~川端間1.23kmとなるので,最短運転間隔は約10分である。) 京電の時代には,単線運転で時刻通りに対向車が来ないことによる見切り発車の結果,単線区間での鉢合わせが発生し漫才ネタになった,という故事の再現は信号保安装置によって防げるとしても,単線の場合,交通混雑等による遅延の影響が全線に波及するので,理論通りの運行はかなり難しいと見るべきだろう。

ところで,単線にすべきとされた路線には,京阪国道口~九条大宮間のように実際の車道幅員は上表より広いと考えられる区間が含まれる。左の図2は「市電を守る会」の母体とも言える,日本科学者会議京都支部交通問題研究会がまとめた「市電を生かした速くて便利な京都の都市交通システムの提案」(1971.3)に掲載された幅員図(注記はないが車道幅員と思われる)である。データには相当誤りがあるが,今出川通の千本~烏丸間には当時歩道がなかったため,道路幅員が16~17m程度というのは概ね正しいと考えられる。(車道幅員は市電複線+片側1車線で大差無いが,歩道幅員の差が正しく反映されているようには見えない。)

市電第1期線に合わせて拡幅された路線は,烏丸通を除いて概ね道幅が5m程度狭い規格となっているが,今出川線については千本~河原町間がこれに該当する。ただし烏丸~寺町間は言わば1.5期線として,5年遅れて開業したため,烏丸以西に比べて1m強幅員が広くなっている。かつての市電・今出川線は全線複線であったが,千本~烏丸間には歩道が無く,烏丸~寺町間は北側に存在した狭い歩道の分だけ道幅が若干広い。千本以西・寺町以東については市電当時から両側に歩道が整備されていた。

図2:「日本科学者会議」による幅員図(1971.3)


LRT導入空間: 現在の規格では,複線軌道を入れるためには道路幅員が27m以上必要であるという俗説があるが,これは以下の答弁書により明確に否定されている。
櫻井充参議院議員(民主・宮城)による質問第28号:
  • 質問主意書(1999.8.6)
  • 答弁書(1999.9.17)
  • 軌道建設上の幅員等に関する具体的な要件は,軌道建設規程(内務・鉄道省令→国土交通省令)と道路構造令(政令)に定められる。

    都市内街路(構造令3条の「4種1級」)を想定すると,複線軌道の導入空間として6m(9条の2),両側に1車線ずつ取ると,片側の車道幅員3.25m(5条の4)に0.5mの路肩(8条の4)が必要となるので,両側で7.5m,さらに歩道幅員が片側2m(11条の3)必要となるので,4mを加えて,最低17.5mが必要とされる。軌道建設規程では歩道のある区間では,軌道敷の端から3.64m以上取ること(規程8条)を要求しているが,これは構造令の3.75mより緩く制約とはならない。図2の烏丸~河原町間の幅員17.5mが正しいならば,千本以西は無論のこと,烏丸以東にも辛うじて複線が敷設できることになる。(図3参照)

    図3:複線導入の場合の最小幅員構成

    センターポール式の場合は,軌道建設規程の工作物に対する余裕幅を考慮しても,道路構造令の要求する軌道敷幅員(6m)に収容できるので制約とならないが,側柱式の場合は歩道幅員の減少を招く可能性がある。また区間内に安全地帯を設ける場合や,自動車交通処理のために右折ポケットを設ける場合には,車線幅を2.75mまで縮小しても幅員不足となるから,甚だ余裕がないことは確かである。特に16m幅員の千本~烏丸間では,双方向交通を維持しつつ複線を導入することは物理的に不可能である。しかし軌道を単線にすると,軌道敷が3mで済むため,必要最小幅員は14.5mとなって,問題なく導入可能であることが解る。

    逆に自動車を一方通行にする場合にも,標準幅員の縮小が可能である。たとえば今出川通の烏丸~寺町間の一般車両を東行一方通行にする場合,道路南側は京都御苑の塀が続き,沿道の民家との出入りは東端50mを除いてないので,図4の左断面のように必要幅員は14.25mに減ずることが可能である。この場合でもバスは軌道敷を用いて逆行が可能(transit lane)であり,歩道からの直接乗降による安全性向上が期待できる。なお軌道建設規程は,歩道設置街路において軌道を道路片側に寄せて敷設することを想定していない(9条)が,富山ライトレールに実施例がある。

    図4:一方通行による複線導入の可能性

    しかしそれ以外の区間では,道路南側の商家の積み下ろしのために,バスに加えて指定車の逆行を認め,さらに随所に停車帯を用意する必要が生じる。停車帯の幅員を2.75m(中型車の幅は最大2.495m)として,停車帯を設ける部分の幅員は17.0mが必要である。従って停車帯を設ける場所では,(1) 歩道の幅員縮小(1.5m)の特認を受けるか,(2) 沿道のセットバック(約1m)を求めるか,(3) 停車帯側の路側帯を省略する(0.5m)等の対応が必要となる。いずれも容易ではないが,今出川通にLRTを導入する場合には,単線区間を最短にする努力は払われるべきだろう。

    (6/30/2007)